夏と言えば怪談。花魁にまつわる怖い話
2025年8月21日

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夏と言えば怪談。花魁にまつわる怖い話
夏と言えば、怪談。花魁にも怪談話があるのでしょうか・・・・・というわけで今回は、花魁にまつわる怪談話です。
どこの世界にも怪談はあるのですね!
簪が鳴る夜——吉原に残る花魁の怪談
灯が落ちたあとの吉原は、格子戸の隙間に夜風が通り、遠くの三味線だけが薄く響きます。賑わいが引いた路地は濡れた石の匂いに満ち、提灯の赤が水たまりに揺れます。この怪談は、かつてここで名を馳せた花魁にまつわるものです。耳を澄ませると、どこからともなく簪の銀鈴が鳴る音がします。風のせいではありません。忘れ物を探す誰かが、今も静かに通りを歩いているのです。
序——忘れ簪の祟り
吉原の外れに、裏木戸から出入りのできる小さな揚屋がありました。働き手の娘・志乃は、夜番のたびに裏路地を掃き清めます。ある晩、箒の先が硬いものに触れました。拾い上げると、細工の見事なビラ簪です。薄い銀の板が重なり、わずかな風でも涼やかな音を立てます。志乃が掌にのせると、簪は微かに温かく、なぜか肌に吸い付くようでした。
「それは薄紅太夫のものだ」と年寄女中が囁きます。薄紅は一時代を作った花魁で、色香だけでなく情けにも篤く、客を選ぶほどの人気でした。ところがある年の夏、彼女は突然姿を消します。残されたのは、道中で鳴るはずの簪の音だけでした。以来、その音を聞く者は、夜のあいだに必ず何かをひとつ返さねばならないと伝わります。返すものは金でも心でも構いません。返しそびれると、翌朝には大切なものがひとつ減るのです。
一——紙燭を買う男
志乃が簪を髪に挿した夜、雨が降り始めました。路地の角から、紙燭売りが現れます。笠の庇から落ちる雫が、拍を刻むように地面を叩きます。男は志乃を見て、燭を一本差し出しました。「返すあてのない灯りを、ひとつ買ってくれないか」。奇妙な言い草でした。志乃が小銭を出すと、男は安堵の息を吐き、消えかけた灯心を指で摘んで明るくしました。その瞬間、志乃の耳元で簪が小さく鳴ります。男は礼を言い、雨の帳に紛れて姿を消しました。翌朝、志乃が戸棚を開けると、去年から行方知れずだった常連の贔屓客の文が戻っていました。封を切ると、薄紅太夫への礼と未払いの支度金の明細がしたためてあります。文の端に、燭の煤が黒く残っていました。
二——鏡の中の稽古
ある晩、志乃は化粧鏡の前で鬢を撫で付け、挨拶の型をひとり稽古します。鏡の奥に、見慣れない赤い打掛が揺れました。驚いて振り返っても、部屋には志乃しかいません。鏡に戻ると、打掛の影は静かに首を傾げます。うなじの白さが、息を止めたように張り詰めています。影は扇を開き、指先で三度、畳を叩きました。志乃が同じように扇を持って三度叩くと、鏡の影は満足げに微笑み、扇を畳みます。簪が澄んだ音を立て、志乃の袖口から淡い香が立ちのぼりました。その夜、志乃は初めて客前の給仕を務め、難しい席を無事にまとめ上げます。座を仕切る間、鏡の影は背後で静かに扇を畳んだまま、志乃の肩越しに見守っていました。
三——雨の道中
翌週、遊郭は雨。その日だけは、通りに道中の列が立たないはずでした。ところが、ぼんやりと提灯の影がのび、草履の音が水面を打ちます。志乃は格子戸の隙間から覗き、息を呑みました。花魁道中の列が、雨の中を静かに進みます。先頭の肩に掛かる紙傘は濡れておらず、裾を払う水が泥を跳ねません。列の中央にいるのは、薄紅太夫でした。足を八字に開き、三枚歯の高下駄で、雨粒を踏まずに進みます。志乃の簪が鳴り、彼女の歩と同じ間で震えました。列が角を曲がると、突如、雨は強くなり、灯が一斉に揺れます。通りに出てみると、誰の姿もありません。残っていたのは、濡れていない足跡だけでした。足跡は志乃の部屋に向かい、鏡の前でふいに途切れます。
四——返しそびれたもの
簪の音に導かれる夜が続き、志乃は自分にも返すべきものがあると気づきます。ずっと胸に引っかかっていたのは、病で倒れた妹に渡せなかった香袋でした。志乃は香袋を抱え、雨上がりの路地に立ちます。「薄紅様、これは私の返しそびれたものです」。そう告げると、簪がことりと鳴り、風が香袋を撫でます。その香は、懐かしい梅の匂いでした。翌朝、志乃の枕元には小さな紙片が置かれ、妹の癖字で「返すべきは香だけではなく、言葉も」と書かれていました。志乃は、これまで言えなかった「ありがとう」を、空に向かって静かに口にします。
五——紅の糸
その頃、揚屋には新しい仕立屋が出入りしていました。若い男で、腕は良いのに、どこか影を帯びています。ある夜、仕立屋が持ち込んだ反物に小さな赤い染みがありました。志乃が指先で触れると、染みは糸の中をゆっくり広がり、花の形を結びます。薄紅の花です。簪が鳴り、反物の端がひとりでに持ち上がりました。仕立屋は震える手で反物を押さえ、「すまない」と呟きます。彼は昔、薄紅太夫の打掛を縫ったことがあり、その代金を受け取る前に逃げたと白状しました。「恐ろしくなったのです。あの人の美しさを形に縫うほど、私の貧しさが際立って見えました」。志乃は静かに頷き、反物を畳みます。翌日、揚屋の帳場に、見覚えのない小判が一枚届きました。打掛の代金にぴたりの額で、角には薄紅色の糸がひと筋結ばれていました。
六——白粉の匂い
夏の終わり、白粉の匂いがいつもより濃く感じられました。夜風に混ざる粉の甘さは、誰かが舞台裏で支度を始めた合図です。志乃が廊下を進むと、化粧部屋の戸が半分開き、打掛がひとりでに衣桁に掛かっています。裾に光る刺繍は川の流れ、袖には薄紅の花。部屋には誰もいないのに、鏡は曇り、一文字に引いた紅だけが鮮やかに残っています。志乃が簪を外して鏡台に置くと、銀鈴が二度鳴き、化粧部屋の奥から低い声がしました。「返す約束を、忘れないこと」。その声は、叱るでも慰めるでもなく、ただ約束を指さすようにまっすぐでした。
七——火の手
秋の乾いた夜、遠くで火の見櫓の拍子木が鳴りました。風向きが変わり、木戸に灰が舞います。遊郭に火の手が及ぶのは時間の問題でした。志乃は女中たちと水を運び、荷を出し、客を誘導します。混乱の最中、化粧部屋の鏡が大きく鳴り、簪が転がり落ちました。拾い上げると、銀が熱に冴え、鈴の音がひときわ澄みます。「返すべきものは、いまここにある」。志乃は鏡の前に座り、簪を膝にのせました。「薄紅様、あなたの道中を、今夜は私が務めます」。志乃は打掛を肩に掛け、火の粉の舞う廊下を一歩ずつ進みます。足を八字に開き、三枚歯の高下駄のまねをして、踏むたびに火の粉が左右に割れます。不思議なことに、志乃の周りだけ、煙が薄くなりました。女中や客がその後ろに列をなし、志乃の歩調に合わせて避難します。外に出た時、火は背後で渦を巻き、揚屋の屋根を呑み込みました。人の列だけが、無事に夜気へ抜け出します。
八——薄紅の道中
避難が終わると、志乃の前に、雨の夜に見たのと同じ道中が現れます。薄紅太夫が先頭に立ち、誰も踏まぬ水面の上を渡るように進みます。志乃は簪を両手で捧げ、「これはお返しに参りました」と頭を下げました。薄紅は微笑み、扇で自分のうなじをそっと隠します。ふわりと白粉の香がして、簪は志乃の掌から軽く離れ、太夫の黒髪に収まりました。銀鈴が三度鳴り、列は淡く薄れていきます。最後尾の禿が振り返り、小さな声で「ありがとう」と言いました。その声は確かに耳に届いたのに、口元は動いていませんでした。
九——朝の匂い
火事のあと、揚屋は焼け跡から再建され、志乃はいつしか年寄女中と呼ばれる立場になりました。新しい鏡は曇らず、白粉の匂いも軽くなり、夜の路地に濡れた石の匂いは戻りました。けれども時折、風の筋が変わると、簪の銀鈴がどこかで鳴ります。鳴るのは、誰かが返すべきを返しそびれた時だけです。志乃は若い娘に言い聞かせます。「借りた情けは早めに返すこと。返せない夜は、せめて言葉を返すこと」。娘たちは笑いながら頷きます。笑いの端で、銀鈴がひとつ、遠くへ転がっていきます。
終——簪の約束
この話を聞いた人は、夜道でかすかな鈴の音を耳にするかもしれません。風のいたずらと片付けることもできます。けれども、その夜に何かをひとつ返してみてください。灯りでも、文でも、言葉でも構いません。返すと決めた瞬間、胸のあたりが不思議に軽くなります。薄紅太夫の道中は、もう二度と目に見える形では現れないかもしれません。それでも、返すべきものを返す人の前では、必ず足音が減り、煙が薄くなります。吉原の路地に残る怪談は、怖がらせるためだけのものではありません。約束の怖さと、美しさを忘れないための話です。今夜、あなたの傍で、簪が小さく鳴るかもしれません。そのときは、どうかひとつだけ、返してみてください。道中の列は見えなくても、あなたの足もとは、きっと明るくなります。

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